新潟地方裁判所高田支部 昭和42年(わ)67号 判決
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〔判決理由〕検察官は、仮りに被告人の走行が中央線を越えず、ただその内側を中央線に車体を一ぱいに寄せていたにすぎなかつたとしても、このような走行途中、前方に対向車両を認めたときはただちに出来るだけ道路左側に進路を移し、かつ、減速、徐行等を行つて接触の危険を避くべき業務上の注意義務があり、被告人は少くともこの注意を怠つたのであるから過失は免れない旨主張するようである。しかし、中央線によつて対向車線が区分されている国道において、制限速度を遵守して左側車線内を走行している以上、対向車があつたとしても、これが現に蛇行運転中であるとか、路端の歩行者その他の障害物を避けるために中央線を越えて進行し、あるいは進行を続けるであろうことが十分予測出来るような特別の事情のないかぎり、自動車運転者としては対向車両が交通法規を守り、対向車線内の走行を確保して自車との衝突等のないよう適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足りるのであつて、対向車両が至近距離に至つて突如中央線を越え自車の進路に出てくることまでも予想してこれに備え減速徐行や道路左端寄りに進路を移す等、危険発生防止のために特別の運転態度をとるべき業務上の注意義務はないと解すべきであるところ、本件において、被告人は、中央線の内側を中央線から一五糎か二〇糎(公判廷では三〇糎)の間隔をおいて進行していた、被害車両は百米あまり前方に発見し、同車が中央線寄りに走つていることは判つたが、そのまま進行すれば無事にすれ違えると思つて走行を続けた旨供述し、これと異なる事実を確認出来ない以上、被告人に自動車運転者としての注意義務過怠は認めることが出来ない。
検察官は、証人高見沢の供述により、当時被害者は衝突地点の手前約六〇米の地点にある協栄産業入口において車道上に一部車体を出していたトラックを避けて中央線を越えて進行した事実があり、被告人はこれを一〇〇米余りの距離に認め得た筈であるから、そのような被害者の進行に対向する場合には、中央線に添つて進行すれば接触の危険があるのであるから自動車運転者には前述のような注意義務がある、と主張するようであるが、仮りに被害者にそのような事実があつたとしても、被害車両のその後の進路上には何ら障碍物は存在していなかつたのであるから、被告人の車両とすれ違う以前に十分中央線左側に進路を戻し得るのであり、また対向車両の運転者としては当然そのように適切な運転をするであろうことを信頼してよいのであつて、何ら特別の事情もなく、むしろ対向車が近ずいているのに、中央線を越えたまま進行を続けるかも知れない危険を予測し、その危険に備えて前記のような措置に出るべき業務上の注意義務はない、というべきであるから検察官の主張は当らないといわなくてはならない。しかも、本件においては証拠上被害者が協栄産業入口付近から衝突地点に至るまで中央線を越えたままで進行を続けたと見るべき情況はないのである。
以上のとおりであつて、本件公訴事実はその証明がなく、または被告人の行為は罪とならないので、被告人に対し刑事訴訟法第三三六第により無罪の言渡をすべきものである。(佐野昭一)